鏡影村

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岡山県の北部、苫田郡の山奥には、地図に載っていない幻の村があるという噂があります。

 

その村の名は「鏡影村(きょうえいむら)」。

 

古くから影を失った者が住む村と呼ばれていて、一度足を踏み入れた者は決して戻らないと言われていて、多くの心霊系

 

YouTuberや都市伝説ファンがその存在を追いましたが、誰一人、確かな証拠を掴むことはできていません。

 

都市伝説と怪異の類が大好きな私は、その謎に強く惹かれていました。

 

■山奥への旅路

 

三連休の初日、登山と探検が趣味の友人・修平を誘って、岡山県の苫田郡にある山岳地帯へと車を走らせました。

 

目的は、例の鏡影村に足を踏み入れることで、情報元は、ある古いネット掲示板にひっそりと書かれていた体験談のみです。

 

「廃林道の奥に、黒い鳥居がある。そこをくぐった者は二度と戻らない」

 

そんな曖昧な文言を頼りに、私たちは現地へ向かいました。

 

山中に入って数時間後、舗装された道は徐々に整備されていない獣道へと変わっていき、やがて、木々の隙間にそれは現れました。

 

高さ二メートルほどの黒い鳥居。

 

色褪せた木材に苔が這い、しめ縄もないその鳥居は、まるで何かを封印しているかのような威圧感を放っていました。

 

「なんか…マズくないか?」修平は足を止め、顔をしかめましたが、私は内心の不安を押し殺し、鳥居をくぐりました。

 

するとその瞬間、周囲の音が一切消えたのです。

 

風の音も、虫の声も、人間の気配さえも。

 

ただ、そこに広がっていたのは、まるで時間が止まったような異世界でした。

 

■村の異様な静けさ

 

鳥居の先は、ゆるやかな坂道となっていて、しばらく進むと小さな集落に辿り着きました。

 

10軒ほどの藁葺き屋根の古民家が並んでいて、まるで昭和初期で時間が止まったかのようです。

 

不気味だったのは、そのすべての家にカーテンも障子もないことで、中が見えてしまっているのに、人の気配は一切ありません。

 

さらに、村の奥には一軒だけ妙に綺麗な日本家屋が建っていて、そこだけ明らかに新しく、白木の柱が太陽光を反射して輝いているように見えました。

 

「あれ、誰かいる…」

 

修平の声で我に返ると、その家の縁側に、白装束の女がじっとこちらを見ているのが見えました。

 

しかし次の瞬間、まばたきをしただけで、女の姿は消えていました。

 

私は気になって、例の綺麗な家へ向かいましたが、玄関には鍵も掛かっておらず、私たちは意を決して中へと足を踏み入れました。

 

■鏡の家と影の喪失

 

家の中は、信じられないほど綺麗に整えられていて、畳は新しく、柱には埃ひとつありません。

 

まるで、今この瞬間も誰かが住んでいるかのようでした。

 

そして、奥の座敷に進むと、そこには一枚の巨大な姿見が置かれていて、縦長の古い鏡で、黒い木枠に見たこともない文字が彫られています。

 

私はふと、自分の姿を確認するように鏡を覗き込みました。

 

すると、鏡の奥に、あの白装束の女が立っていたのです。

 

彼女はこちらをじっと見つめ、無表情のまま、ゆっくりと口を開きましたが、声は聞こえません。

 

ただ、唇の動きが読めました。

 

「…かえれない」

 

私は恐怖で後ずさりしましたが、足元が急に重くなって、視界がぐにゃりと歪みました。

 

全身から力が抜けて、気が遠くなっていく中で――私は自分の影が剥がれ落ちていくのを見たのです。

 

地面にあったはずの自分の影が、まるで風に吸い込まれるように、ふわりと鏡の中へ入っていきました。

 

■時の迷宮と鏡の儀式

 

気づけば、修平の姿は消えていて、外に出ようとしても、どの道を進んでも同じ場所へ戻ってきてしまいます。

 

何度も、何度も、私は村の中を彷徨いました。

 

やがて、同じ家の前に戻ったとき、玄関先に倒れている修平を見つけました。

 

「影…が、ない……見られたんだ……」

 

彼の顔は蒼白で、言葉も途切れがちです。

 

私は彼の腕を引いて家の中に戻り、もう一度、あの鏡の前に立ちました。

 

すると鏡の中には、影を持たない自分自身が立っていて、その隣には、例の女が寄り添うように立っていて、今度はしっかりと声が聞こえました。

 

「影を返してほしければ、"選べ"」

 

その瞬間、鏡の中に無数の影が渦巻いているのが見えました。

 

子供のもの、大人のもの、老女のもの――どれも形は不確かで、今にも溶け出しそうな影ばかり。

 

私は咄嗟に叫びました。

 

「いらない!返さなくていい!俺のだけでいい!」

 

女は一瞬驚いた表情を見せると、にやりと笑って、指を鳴らしました。

 

鏡がひとりでに割れ、その破片が宙に舞い、私たちの足元に影が戻ってきました。

 

■脱出と影の違和感

 

気づけば、私たちは鳥居の前にいて、あの異様な空気は消え、虫の声が戻り、風が木々を揺らしています。

 

私たちは急いで車へ戻り、山を下りました。

 

無言のまま自宅に戻った夜、私はふと、自分の部屋の鏡を覗きました。

 

自分の姿はしっかりと映っています。影もあります。

 

…しかし、じっと見ているうちに、ある違和感に気づきました。

 

影が、私と逆の動きをしている瞬間があって、数秒ごとに、微かに笑っているようにも見えました。

 

私は今でも、自分の背後に誰かの影を感じながら、生きています。

 

あの村は、確かに存在したのです。

 

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