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山間部にひっそりと存在していたという雨埜村(あまのむら)。
その名は地図にはなく、公式の記録にも載っていない。
しかし、地元の古い世代の人々の間では、その存在を知る者がいる。
だが、彼らに村のことを尋ねると、決まってこう答える。
「その話はやめたほうがいい」
「そこに行くべきじゃない」
彼らの顔には明らかな恐怖の色が浮かび、決して詳しく話そうとはしない。
この村について書かれた正式な文献はほとんどなく、わずかに残された資料によると、雨埜村は昭和の終わり頃までは確かに存在していたという。
しかし、ある日を境に、村は忽然と姿を消した。
住民が全員、何の痕跡も残さずに消えてしまったのだ。
雨埜村の消失
雨埜村が消えたのは、昭和60年代のある雨の夜だった。
当時、村の人口は約30人ほど。高齢者が多く、村には電気も通っておらず、生活は昔ながらのままだった。
村人たちは互いに支え合いながら暮らしていたが、ある日を境に、彼らの姿は忽然と消えた。
異変に気づいたのは、村と交流のあった隣村の住民だった。
いつも山道を通って雨埜村まで荷物を届けていた男が、村を訪れた際、信じられない光景を目にした。
村には人の気配が一切なく、家々の戸は開け放たれたまま。
畑には作物が残っており、食卓には食べかけの食事がそのまま置かれていた。
「おーい! 誰かいるか?」
男は何度も叫んだ。しかし、返事はない。ただ、あまりにも静かすぎる。
いつも聞こえていた鳥の鳴き声や虫の音すら、ぴたりと止んでいたという。
不安を感じた男は、すぐに村役場に連絡し、警察が出動することになった。
警察と地元の役人が調査に入ったが、争った形跡はなく、村人たちが突然失踪するような理由も見当たらなかった。
食事の状態から考えて、失踪はほんの数時間以内の出来事だったと推測されたが、それを裏付ける証拠はどこにもなかった。
警察は山狩りを行い、隣村の住民たちも協力して村人を探した。
しかし、数日間にわたる捜索の末、一人も発見されなかった。
村人たちはまるで霧のように消え去ってしまったのだ。
やがて、雨埜村は「危険地域」とされ、村の存在はなかったことにされた。
そして、地図からも完全に抹消されたのである。
村の奇妙な風習
雨埜村には、古くから伝わる不思議な掟があったという。それは――
「雨の夜は決して戸を開けてはならない」
村の言い伝えによると、雨の夜には「迎え」が来るという。
迎えが何者なのかははっきりとは伝えられていないが、それに応じてしまうと、開けた者は二度と戻らないと言われていた。
たとえば、ある昔話が村には残されていた。
大正時代、村のある家で、一人の少年が雨の夜に戸を叩く音を聞いたという。
少年は寝ていたが、外から「母さん、開けてくれ」と聞き覚えのある声がした。
それは、昼間に山へ薪を取りに行ったまま帰らなかった父親の声だった。
少年は不審に思った。
なぜなら、父親は家を出る前に、**「今日は遅くなるかもしれないが、絶対に戸を開けるな」**と言い残していたからだ。
少年は怖くなり、布団をかぶってじっとしていた。しかし、父の声は何度も繰り返し聞こえた。
「開けてくれ……寒いんだ……」
ついに少年は耐えきれず、戸を開けてしまった。
翌朝、母親が目を覚ますと、少年は消えていた。
戸口には大きな水たまりができており、泥のついた足跡が外へと続いていたという。
それ以来、村では「雨の夜に戸を開けるな」という掟が、厳しく守られるようになったのだ。
現在の雨埜村
雨埜村は今では地図から消え、公式な記録には残っていない。
しかし、村の跡地を探そうとする者は後を絶たない。
2000年代に入り、都市伝説を追うライターの男性が雨埜村を訪れた。
彼は郷土資料を調べ、村の痕跡を見つけ出した。
そして、夜明け前に山を登り、村へと向かった。
村に近づくにつれ、異様な感覚に襲われた。
温度が急に下がり、周囲の音が消えた。
鳥の鳴き声すら聞こえない。
ただ、霧の向こうに廃屋が見えた。
彼は村の広場に足を踏み入れた。
そのとき、異変に気づいた。
地面が濡れていた。
その日は晴れていたのに、村の中心部だけがまるで雨が降ったかのように湿っていた。
彼はカメラを構えた。
しかし、レンズ越しに見えたのは、家々の窓に並ぶ無数の黒い影だった。
それらはじっと、彼を見つめていた。
恐怖に駆られ、彼は村を後にした。
そして帰宅後、撮影した写真を確認しようとしたが、全てのデータが破損していた。
それ以来、彼は雨埜村について話すことをやめた。
そして数ヶ月後、彼は行方不明になったという。
終わりに今でも、雨埜村の場所を探しに行く者はいる。
しかし、無事に戻ってきた者は少ない。
そして、戻ってきた者も決して多くを語ろうとはしない。
もし、あなたが雨の降る夜に、見知らぬ村を見つけたなら……
決して、足を踏み入れてはいけない。
そこには、もう人は住んでいないはずなのだから。
- 工事中
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