くりぬき村

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私が学生の時の出来事です。当時旅行サークルに所属していた私は、同じサークルにいた友人舞子(仮名)の故郷に一緒に帰省することになりました。

 

舞子は岩手県の某集落の出身で、そこは綺麗な小川が流れる、自然に恵まれた村なのだそうです。

 

ちょうど夏休みで暇を持て余していた私は、舞子の誘いに応じてレンタカーを借り、彼女の故郷の村へと出発しました。

 

カーナビ頼りに車を走らせてると道端にちらほらお地蔵さんが建っているのに気付きました。

 

「沢山あるね。道祖神っていうんだっけ?」

 

「うん。でもうちの村のは特別なの」

 

「特別?」

 

「ほら」

 

舞子が指さす方角に向き直ると、辻の中央に変なお地蔵さんが佇んでいました。

 

パッと見普通のお地蔵さんなのですが、よくよく観察してみると胸の部分が窪んでいる……いえ、抉れているのです。まるで心臓を抉り取られたようでぞっとしました。

 

「くりぬき地蔵っていうの」

 

「変わってるね。ちょっと不気味……あ、ごめん」

 

「別にいいよ」

 

「なんか謂れあるの?」

 

「よく知らない。おばあちゃんなら知ってるかも、認知症気味だけどね。調子よければ答えてくれるんじゃない?聞いてみたら」

 

「覚えてたらね」

 

お地蔵さんの胸の窪みにはちょこんと赤い布製のお手玉が乗っかっていました。失くした心臓の代わりのように。

 

その後無事舞子の実家に到着した私は、ご両親と挨拶を交わし、昼食をごちそうになりました。舞子の祖母は折悪しく夏風邪を引いて寝込んでいたので、挨拶するのは遠慮しました。

 

翌日……舞子に村を案内してもらうことになった私は、集落の至る所に例のくりぬき地蔵が建っていることに気付き、ますます謂れに関心を抱きました。

 

適当なご近所さんを掴まえて聞いてみようかと思った矢先、舞子が中学の友達と鉢合わせしました。

 

思い出話で盛り上がる二人を邪魔しないように離れた所へ移動すると、草むらの中にくりぬき地蔵がいました。なんとなくしゃがんで向き合った拍子に、肩に下げてた鞄がお手玉を弾きます。

 

あっと思った時には遅く、お手玉は用水路に転がり落ちてしまいました。

 

ふいにガサッと草の揺れる音がします。反射的に視線を飛ばすと、なんとも場違いな人がいました。それは擦り切れた着物を羽織った中年の男性で、具合が悪そうに身を屈めています。

 

「あの、大丈夫ですか。救急車呼びましょうか」

 

思い切って声を掛けた瞬間、男性が顔を上げました。その姿を見てぎょっとしました、胸がごっそり抉れていたのです。まるでくりぬき地蔵のように。

 

「きゃあああっ!」

 

悲鳴を上げた瞬間バランスを崩し、畦道から転げ落ちました。そこは泥田でずぶずぶ体が沈んでいきます。

 

次に目覚めた時、私は舞子の家の和室に寝かされていました。どうやらあのまま気を失ってしまったみたいです。

 

布団から起き上がった私を覗き込み、舞子とご両親は相好を崩しました。

 

「よかった、心配したんだよ。何があったの?」

 

「えっと……」

 

まさか胸が抉れた男を見たとは言えず口ごもる私の反応をどう思ったのか、ご両親と舞子は顔を見合わせています。結局その日はとても食欲が湧かず、早々と就寝したのですが……。

 

夜寝ていると突然胸が重苦しくなりました。誰かが私を囲んで見下ろしています。黒い影が輪になって囲んでいるのです。よくよく目を凝らすと人影の胸部はごっそり抉れていました。

 

「俺の心臓はどこだ」

 

「どこにやった」

 

(し、知らない!誰か助けて!)

 

心の中で必死に叫んでも金縛りが解けず、ただ震えるしかない私をよそに、謎の影たちは不気味な呻き声を上げます。その間にも胸の穴はどんどん広がり、遂には貫通してしまったではありませんか。

 

(くりぬき地蔵が化けて出たんだ……でもなんで?祟られるようなこと何もしてない!)

 

「心臓をよこせ」

 

一番手前に座っていた影が私の胸に手を翳しました。直後、心臓に激痛が走ります。

 

直接抉り出されるような痛みに耐えかね、無我夢中で「許して!」と叫んだ瞬間、金縛りが解けました。

 

「欲しいのはこれじゃろ!くれてやる!」

 

ほぼ同時にガラガラと障子が開け放たれ、物凄い形相をした老婆が立ち塞がり、人影に向かって何かを思い切り投げ付けました。それは赤いお手玉でした。

 

転々と畳に跳ねるお手玉と眼前の老婆を見比べ、呆然と固まる私のもとへ、舞子とご両親が駆け付けてきました。

 

その後居間に移動した私は、舞子の祖母の口からくりぬき地蔵の恐ろしい謂れを聞かされます。

 

くりぬき地蔵の起源は大昔にこの村で行われていた生贄の儀式で、村八分にされた者が心臓を抉り取られていたのです。

 

「あの地蔵は生贄の供養の為に建てられたんじゃよ」

 

「なんで胸が抉れてるんですか?」

 

「最初は普通の地蔵じゃった。しかし生贄の怨みがあまりに深すぎたのか、気付くと自然に抉れてしまうんじゃ。完全に穴が開く前に代わりのもので埋めねば災いが起こる」

 

「だからお手玉を……」

 

お婆さん曰く、くりぬき地蔵がお手玉を心臓と勘違いしてる間は村に不幸は起こらないのだそうです。

 

私は興味本位にお手玉をいじった自分の軽率さを恥じ、舞子の村から早々と立ち去りました。

 

以来彼女の村には遊びに行ってませんが、くりぬき地蔵はまだあそこにいるのでしょうか。

 

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