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ここで公開している話はすべてオリジナル小説で登場する人物、場所は架空でありフィクションです。
体調が悪い時は逆に健康に悪化させる可能性があるため読むのを中止にしてください。
山深く、濃い霧に包まれた村があった。
地図には載っておらず、地元の人ですら、その存在を知る者はほとんどいない。
だが、近くの町では不可解な失踪事件が続いていた。
山へ入った猟師、ハイキングに来た登山者、車で通りがかった旅行者──彼らはある日を境に忽然と姿を消した。
警察が捜索しても何の痕跡も見つからず、やがて町の人々はこう噂するようになった。
「あの山には入るな」
「黒斬村に行ったら、もう二度と戻れない」
波乗勝人は、そんな噂に興味を持った男だった。
彼は廃村や都市伝説を調査するルポライターで、奇妙な事件やオカルトじみた話を追うのが仕事だった。
黒斬村の話を耳にした彼は、すぐに取材を決意した。
古い文献を調べると、かつてその山には**「黒斬村」**と呼ばれる集落が存在した記録があった。
しかし、昭和初期に突然消えたとされ、それ以降の情報は一切なかった。
「これは面白いネタになる……」
そう考えた勝人は、カメラや録音機を持ち、単身で山へ向かった。
霧は濃く、昼間なのに夕暮れのような薄暗さだった。
獣道を進むうちに、勝人は奇妙な違和感を覚えた。
──道が、無限に続いている。
進めど進めど同じ景色が広がり、木々の間から覗く朽ちかけた鳥居が、まるで彼を監視するかのように立っている。
何時間歩いたかわからなくなったころ、突然、目の前に村の入り口が現れた。
古びた家々が霧に沈み、静寂が支配する村。
誰も住んでいないはずなのに、どこかの家の戸がゆっくりと開く音が聞こえた。勝人は息をのんだ。
「……誰かいるのか?」
彼が声をかけると、霧の中から人影が現れた。
村人たちは普通の様子ではなかった。異様に感じ取れる。
着物をまとい、青白い顔をした老人たち。無表情な女たち。
何かを噛みしめるように歯を鳴らす子どもたち。
彼らは皆、勝人をじっと見つめていた。
老若男女20人ぐらいはいただろうか…
緊張のあまり周囲が見えない心理状態になっていたからだ。
「旅の方……お入りなさい」
しわがれた声の老婆が勝人を招き入れた。
勝人はカメラを構えつつ、彼女についていく。
村の中央には大きな広場があり、そこで村人たちは何かの準備をしていた。
──祭りの準備だ。
祭りといっても華やかさやイセイな掛け声とかもない静けさであった。
そこに並べられた赤黒い骨のようなものを見た瞬間、勝人の背筋に冷たいものが走った。
これは……人骨じゃないか?
「さあ、儀式の始まりです」
勝人は囲まれていた。
村人たちの手には、異様に鋭い刃物が握られている。
彼らは笑みを浮かべ、狂気に満ちた目で勝人を見ていた。
──これはただの祭りじゃない……
──これは、生贄の儀式だ。
「まずは足から……」
村人の一人が勝人の足を掴んだ。その瞬間、勝人の全身が総毛立つ。
──逃げなければ、殺される!
だが、周囲を完全に囲まれている。
手には刃物を持った村人たちが立ちふさがり、どこにも逃げ道はなかった。
心臓が激しく脈打ち、額から冷たい汗が流れる。
視線を走らせたその時、勝人の記憶の中にあるものが蘇った。
──井戸だ。
村の入り口近くに、深い井戸があった。
地図を調べたときに見た古い資料にも、その井戸のことが書かれていた。
「この村で唯一、外へ通じる可能性のある場所」
勝人は、そこに賭けるしかないと悟った。
彼は全力で駆け出した。
驚いた村人たちが一瞬動きを止める。
その隙を突き、勝人は村の入り口へ向かって走った。
だが、後ろからの足音がどんどん迫ってくる。
──間に合わない!
勝人は勢いよく井戸の縁に飛び乗り、そのまま中へと飛び込んだ。
水底に激しく衝撃を受け、体が沈んだ。
井戸は思ったより深く、水の中で方向感覚が狂う。
だが、底に水流があることに気づいた。
「ここから……抜けられる!」
勝人は必死に泳ぎ、水流に身を任せた。
暗闇の中、流されながら何度も意識が遠のきかけたが、ついに光が見えた。
気づけば彼は、山のふもとの川に打ち上げられていた。
恐怖からの安堵感からしばらくその場から動くことができなかった。
町へ戻り、警察に駆け込んだ。
その村で起った出来事、腕の傷の事を覚えている範囲で説明した。
だが、彼の証言を聞いた警官たちは、信じるどころか**「そんな村は存在しない」**と言い切った。
「誰も信じてくれないのか…。この出来事は自分の胸に閉まっておこう。」と呟く。
勝人は確かに村を見た。村人たちに囲まれ、生贄にされそうになった。
それなのに、警察が現地を調査すると、そこには何もなかったのだ。
焼け跡すら残されていなかったのだ。
「そんなはずは……!俺は夢でも見ていたのか…」
いや違う…夢ではなかったのだ!
勝人は自分の腕を見た。そこには深い傷跡が残っていた。
それは、村人の誰かに噛みつかれた痕だった。
黒霧村は、本当に消えたのか。
それとも、存在を知られるのを恐れ、ただ姿を隠しただけなのか──。
勝人の傷跡が、その答えを知っているかのように、じくじくと痛み続けていた。
- 工事中
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